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千葉地方裁判所 昭和59年(行ウ)1号 判決

千葉県我孫子市緑一丁目一一番一四号

原告

葵開発工事株式会社

右代表者代表取締役

上原悦和

右訴訟代理人弁護士

朝倉敬二

右訴訟復代理人弁護士

森仁至

布施憲子

千葉県柏市一丁目二番一八号

被告

柏税務署長

小旛恒夫

右指定代理人

杉山正己

岩崎輝弥

竹澤雅二郎

三上正生

鳥飼俊夫

山寺信男

石黒邦夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告の昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五四年三月期」という。)及び昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一までの事業年度(以下「昭和五五年三月期」という。)について、松戸税務署長のした次の処分を取り消す。

(一) 昭和五七年二月二七日付けでした法人税の更正処分及び重加算税の賦課処分。

(二) 同日付けでした昭和五三年一二月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課処分。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  訴外松戸税務署長(以下「松戸税務署長」という。)は、昭和五七年二月二七日、原告の昭和五四年三月期及び昭和五五年三月期の各確定申告について、課税所得金額を一七四〇万二七四七円、法人税額を六一二万〇七〇〇円とする更正処分及び重加算税を一八三万六〇〇〇円とする賦課処分をし、同日付けで原告にこれを通知した。

2  松戸税務署長は、右同日、原告の昭和五三年一二月分及び昭和五四年一月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)につき、源泉徴収額を五三二万六六三二円とする納税告知処分及び不納付加算税を五三万二六〇〇円とする賦課処分をした。

3  原告は、右各処分を不服として、昭和五七年四月二日に異議申立てをしたところ、松戸税務署長は同年七月二日付けで法人税については異議棄却、所得税については昭和五三年一二月分の源泉所得税額を三五四万六〇〇〇円、不納付加算税額を三五万四六〇〇円とする減額修正をした。

4  原告は、更に不服として、同年七月三一日、国税不服審判所長に対し審査請求したが、同審判所長は、昭和五八年一一月一五日付けで審査請求をいずれも棄却する旨裁決し、原告は同月二三日に右裁決書謄本の送達を受けた。

5  被告は、昭和五七年七月一二日、大蔵省令により松戸税務署長の事務を承継した。

6  しかし、松戸税務署長のした前記更正処分及び加算税賦課処分並びに納税告知処分及び不納付加算税賦課処分はいずれも違法であるから、原告は、松戸税務署長から事務を承継した被告に対し、その取消を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1  本件更正処分の根拠及び適法性

(一) 昭和五四年三月期についての更正処分の根拠。

原告の当期に係る所得金額等は次のとおりであり、その内容は後記のとおりである。

〈省略〉

(二)(1) 申告欠損金控除額九八八万一四一五円及び申告所得金額零円

原告は、当期の修正申告において、その申告所得金額の計算にあたり、当期の欠損金控除前の所得金額を九八八万一四一五円とし、前期からの繰越欠損金六八三三万六七二八円のうちから右所得金額相当分の九八八万一四一五円を当期の欠損金控除額として損金に算入し、申告所得金額を零円として申告した。

(2) 加算項目及び金額一九三八万円

支払手数料否認九五〇万円

外注費否認九八八万円

原告は、訴外太平洋興発株式会社(以下「太平洋興発」という。)が、昭和五三年一二月六日、訴外大洋基礎株式会社(以下「大洋基礎」という。)から千葉県印旛郡四街道町大字栗山字水上二四〇番四四の宅地ほか三六筆の宅地合計七三八五・五三平方メートル(以下合わせて「本件土地」という。)を代金一億六〇〇〇万円で買い受けるに際し、この契約の仲介を行い、その役務の対価として、太平洋興発から、昭和五三年一二月六日に仲介手数料名目で九六〇万円を、同月二六日及び昭和五四年一月三一日にいずれも本件土地の造成工事代金名目でそれぞれ五〇〇万円及び五四〇万円を受け取り、合計二〇〇〇万円を受領した。

原告は、このうち九六〇万円を不動産売上金、その余の一〇四〇万円を完成工事収入として収益に計上する一方、そのうちから支払手数料として訴外株式会社安房自然村(以下「自然村」という。)に対し九五〇万円を支出し、外注費として自然村及び訴外太田定義(以下「太田」という。)に対しそれぞれ八八八万円及び一〇〇万円を支出したとして、これらを損金に計上して昭和五四年三月期の経理処理をした。

原告の右経理処理は、本件土地売買の仲介は実質的には自然村が行ったものであり、また、本件土地の造成工事は原告の外注により自然村と太田とが施工したという理由によるものである。

しかし、原告が太平洋興発から受領した二〇〇〇万円は、名目のいかんを問わず全額本件土地の仲介手数料であって、前記の造成工事は、右仲介手数料を糊塗するために設定した架空工事であり、右造成工事を自然村や太田が行った事実はない。よって、被告は、本件支払手数料等の支出は架空経費の計上であるとして、損金算入を否認した。

(3) 減算項目及び金額一九三八万円

〈1〉 寄付金の損金不算入額認容二四万二二四七円

原告は、当期における所得計算にあたり、寄付金の損金算入額を五一九万二一一六円として申告した。しかし、前記のとおり、支払手数料等の合計一九三八万円の損金算入は否認すべきであるから、否認後の寄付金の損金不算入額を計算すると、別紙のとおり四九四万九八六九円となる。よって、被告は、右の五一九万二一一六円と四九万九八六九円との差額二四万二二四七円を損金として認容した。

〈2〉 繰越欠損金の損金算入額一九一三万七七五三円

被告は、原告の前期からの繰越欠損金のうち、前記(2)の加算項目の合計額一九三八万円と同(3)の〈1〉の減算項目中寄付金損金不算入額認容の二四万二二四七円との差額一九一三万七七五三円相当分を当期の欠損金控除額として更に損金に算入することを認容した。

(4) 欠損金控除額二九〇一万九一六八円

前記(1)の申告欠損金控除額に同(3)の〈2〉の繰越欠損金の損金算入額を加算したもので、被告が主張する原告の当期に係る欠損金控除額である。

(5) 合計所得金額零円

前記(2)から(3)を控除した金額である。

(6) 還付法人税額八万五八〇〇円

原告は、土地の譲渡等による譲渡利益に対する税額の計算において、土地譲渡利益四二万九〇〇〇円及び税額を八万五八〇〇円とする申告をしたが、右土地以外の土地譲渡による譲渡損を通算して再計算を行ったところ、課税土地譲渡利益が零円となったため、被告は、右税額八万五八〇〇円を還付した。

(三) 昭和五五年三月期についての更正処分の根拠。

原告の当期に係る所得金額等及びその内容は、次のとおりである。

〈省略〉

原告は、当期の修正申告において、その申告所得金額の計算にあたり、当期の欠損金控除前の所得金額を五六七二万〇三〇七円とし、前期からの繰越欠損金が五八四五万五三一三円あるとした上、右繰越欠損金のうちから右所得金額相当分である五六七二万〇三〇七円を当期の欠損金控除額として損金に算入し、申告所得金額を零円として申告した。

しかし、被告の前期の更正処分の結果、前期からの繰越欠損金の額は三九三一万七五六〇円(右の五八四五万五三一三円から前記(二)の(3)の繰越欠損金の損金算入額一九一三万七七五三円を控除したもの。)となる。

よって、被告は、原告の当期の欠損金控除額を三九三一万七五六〇円であるとし、前記欠損金控除前の所得金額五六七二万〇三〇七円から右欠損金控除額を控除した差額一七四〇万二七四七円について控除過大と認め、その損金算入を否認した。したがって、原告の当期に係る合計所得金額は一七四〇万二七四七円となる。

(四) 本件更正処分の適法性

以上のとおり、原告の昭和五四年三月期の欠損金控除額は二九〇一万九一六八円、所得金額は零円となり、昭和五五年三月期の欠損金控除額は三九三一万七五六〇円、所得金額は一七四〇万二七四七円となるところ、本件更正処分は、これと同額をもってなしたのであるから、適法である。

2  本件重加算税賦課処分の根拠及び適法性

前述のとおり、原告が支払手数料及び外注費を計上して損金に算入したことは、架空経費の計上であって、右行為は、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したものに該当するから、被告は、国税通則法六八条一項の規定に基づき、昭和五五年三月期の納付すべき法人税六一二万円(一〇〇〇円未満の端数切捨)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて算出した金額一八三万六〇〇〇円の重加算税を賦課決定した。したがって、本件重加算税の賦課処分は適法である。

3  源泉所得税の納税告知処分に係る源泉所得税の対象となる賞与の認定根拠及び適法性

(一) 原告は、その代表者であった訴外井手口正(以下「井手口」という。)に対して、本件支払手数料等に係る金員のうち、次のとおり、昭和五三年一二月中に合計一一八二万円を支給したと認められ、これは同人に対する賞与と認定されるべきものである。

(1) 原告は、昭和五三年一二月六日、自然村あてに支払手数料として五八二万円を振込送金しているが、この支払手数料は、前記のとおり架空経費であり、かつ、自然村ではこれを井手口から借り入れたものとして経理処理をしている。

よって、右金員は、同日、井手口が原告から支給を受け、個人的に自然村に貸与したものと認められる。

(2) また、原告は、同月二二日、自然村あてに外注費として二〇〇万円を振込送金している。しかし、右外注費も架空経費であり、かつ、自然村では右金員を井手口から借り入れたものとして経理処理をしている。よって、右金員も、同日、井手口が原告から支給を受け、個人的に自然村に貸与したものと認められる。

(3) 井手口は、同月一六日、同人の代理人訴外正堺喜夫(以下「正堺」という。)を介して原告から一〇〇万円の交付を受け、同月二二日、右金員を井手口が代表役員をしていた訴外宗教法人不老山能忍寺(以下「能忍寺」という。)が太田に対して負担していた建物設計代金債務の弁済として、太田に支払った。

原告は、右支払を太田に対する外注費債務の弁済として経理処理しているが、前記1の(二)の(2)のとおり、これは架空経費である。よって、右金員は、同日、井手口が原告から支給を受け、個人的に能忍寺のためその債務の支払に充てたものと認められる。

(4) 更に、井手口は、同月二八日、訴外株式会社千葉銀行館山支店の原告名義の当座預金口座から三〇〇万円を払い出して費消し、原告から右金員の支給を受けた。

(二) 前記(一)の合計一一八二万円は、昭和五三年一二月中に原告からその代表者井手口に対して支給された役員賞与と認められるところ、原告は、所得税法一八三条に基づいて右賞与に対する源泉所得税を徴収して納付すべきであったのに、これをしなかったので、被告は、同法一八六条一項に基づいて算出した右賞与に対する源泉所得税三五四万六〇〇〇円について、国税通則法三六条一項二号の規定により原告に対し納税告知処分を行った。

したがって、本件納税告知処分は適法である。

4  不納付加算税の根拠及び適法性

被告は、原告の源泉所得税額がその法定期限までに完納されなかったことから、国税通則法六七条一項に基づき、前記納税告知に係る源泉所得税額三五四万六〇〇〇円(異議決定による一部取消し後のもの)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額三五万四六〇〇円の不納付加算税を賦課決定した。

したがって、本件不納付加算税賦課処分は適法である。

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

1  抗弁1の(一)及び同(二)の(1)は認める。

2  同1の(二)の(2)の事実のうち、原告が本件土地売買契約の仲介を行い、その役務の対価として合計二〇〇〇万円を受領した事実は否認し、その余の事実は認める。

本件土地売買の仲介は、自然村の社員である訴外柘植宗光(以下「柘植」という。)及び同社員正堺の両名が自然村の業務としてなしたものであり、原告は、仲介行為を一切していない。

原告が、太平洋興発から仲介の手数料等として二〇〇〇万円を収受したのは、仲介者である自然村に不動産取引の資格がなかったことから、その資格を有し、かつ自然村・太平洋興発の双方と関係のある会社として双方から要請され、名義上の仲介者となることを承諾したことに基づくものであって、名義貸手数料を差し引いた一九三八万円は自然村に帰属すべきものであるから、自然村に支払った一九三八万円の損金計上は正当である。

3  同(二)の(3)ないし(5)は、いずれも損金算入の否認に基づき被告がなした一連の計算の過程であることは認める。

4  同(二)の(6)は認める。

5  同(三)は、原告が申告所得金額を零円として申告した事実は認め、その余については、被告が前期更正処分の結果を当期に及ぼした計算の過程を示したものであることは認める。

6  同(四)は争う。

7  同2は争う。

8  同3の(一)の(1)のうち、原告が昭和五三年一二月六日自然村に支払手数料として五八二万円を振込送金したこと、及び、自然村においてはこれを井手口から借り入れたものであるとして経理処理していることはいずれも認め、右支払手数料が原告において支払う必要のない架空経費であり、その趣旨が井手口に対する(賞与)支給であることは争う。

9  同3の(一)の(2)のうち、原告が自然村あてに外注費として二〇〇万円を振込送金したこと、及び、自然村においてはこれを井手口から借り入れたものとして経理処理していることはいずれも認め、それが支払う必要のない架空経費であり、その趣旨が井手口に対する(賞与)支給であることは争う。

10  同3の(一)の(3)のうち、原告が正堺に一〇〇万円を交付し、これを太田に対する外注費の弁済として経理処理したこと、右金員は、能忍寺が太田に対して負担していた建物設計代金債務の弁済として支払われたことはいずれも認め、原告の右一〇〇万円の交付の趣旨が井手口に対する(賞与)支給であることは争う。

11  同3の(一)の(4)のうち、井手口が千葉銀行館山支店の原告名義の当座預金口座から三〇〇万円を払い出したこと、原告がこれを自然村に対する外注費債務の支払に充てたとして経理処理したことはいずれも認める。井手口が右三〇〇万円を費消し、もって原告から(賞与)支給を受けたことは争う。

12  同3の(二)及び4は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。そこで、本件各処分の適法性について判断する。

二  昭和五四年三月期ついて

1  原告が、抗弁1の(二)の(1)に記載のとおりの確定申告をしたことは当事者間に争いがない。

2  加算項目及び金額(支払手数料否認及び外注費否認)について

抗弁1の(二)の(2)のうち、太平洋興発が、昭和五三年一二月六日大洋基礎から本件土地を代金一億六〇〇〇万円で買い受けたこと、原告が、太平洋興発から昭和五三年一二月六日に仲介手数料名目で九六〇万円を、同月二六日及び昭和五四年一月三一日にいずれも本件土地の造成工事代金名目でそれぞれ五〇〇万円及び五四〇万円を受け取り、合計二〇〇〇万円を受領したこと、原告が、このうち九六〇万円を不動産売上金、その余の一〇四〇万円を完成工事収入として収益に計上し、そのうちから支払手数料として自然村に九五〇万円を、外注費として自然村及び太田にそれぞれ八八八万円及び一〇〇万円を支出したとして、これらを損金に計上して昭和五四年三月期の経理処理をしたこと、原告の右経理処理の理由は、本件土地売買の仲介は実質的には自然村が行ったものであり、また本件土地の造成工事は原告の外注により自然村と太田とが施工したことによるとされていること、しかし、実際には本件土地の造成工事を自然村や太田が行った事実はなく、右二〇〇〇万円は、実質全額本件土地売買の仲介手数料であったことは、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、この二〇〇〇万円は、自然村が行った本件土地売買の仲介手数料であるから、これから原告の名義貸手数料を控除した一九三八万円を自然村に交付したのは当然であり、その支出を原告の損金として計上したのは正当であると主張する。そこで、本件土地売買の仲介は原告と自然村のいずれが行ったものかについて検討する。

(一)  いずれも成立に争いのない乙第一ないし第三号証、第一七号証、第一九号証、第二〇号証の一、第二四号証、第二五、第二六号証の各一、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第二〇号証の二ないし五、第二二号証、証人正堺喜夫、同柘植宗光、同大貫紀夫、同相沢博、同米山義二の各証言並びに原告代表者上原悦和尋問の結果(以下「原告代表者の供述」という。)によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告は、昭和三九年五月一六日に設立され、総合建設業、観光事業の経営、宅地の造成及び分譲、不動産の取得及び収益、不動産売買の仲介等を目的としていた。

原告は、いわゆる同族会社であって、昭和五三年当時の株主、井手口との続柄及び株式数は、井手口(本人)二万四〇〇〇株、訴外井手口ミドリ(妻)一万五〇〇〇株、訴外井手口魁(長男)一万五〇〇〇株、訴外井手口赳(二男)一五〇〇株、訴外井手口庸子(三女)一五〇〇株、訴外正堺捷子(長女)一五〇〇株、訴外豊田宥子(二女)一五〇〇株であった。

(2) 自然村は、原告の観光事業部門が赤字続きであったため、これを切り離して独立させるということから、昭和五二年四月一日、本店を館山市布良六〇〇番地に置き、目的を自然村の造成及び維持管理、ホテル及び飲食店の経営並びに土産物の販売等として設立され、井手口がその代表取締役に就任した。

自然村も、いわゆる同族会社であって、その株主等は、井手口二万株、魁及び赳各二五〇〇株、訴外豊田晁(二女宥子の夫)、正堺(長女捷子の夫)、訴外新井定一、訴外亀岡堯及び訴外後藤静男各一〇〇〇株であった。

(3) 能忍寺は、昭和五三年六月五日、主たる事務所を館山市布良六一三番地の三に置き、「釈迦如来を本尊として、釈迦の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成するための教務及び業務を行うことを目的とする。」として設立され、井手口がその代表役員に就任した。

(4) 大洋基礎は、昭和五二年四月東京地方裁判所に対して会社更生法に基づく更正手続開始の申立てをなし、同月一三日更生手続開始決定を得て、訴外坪内壽夫が管財人に選任された。管財人坪内は、訴外田中盛を管財人代理に選任した。

大洋基礎において、訴外亀山一豊は取締役総務部長として、柘植は不動産部次長として、訴外大貫紀夫は不動産部係長として、それぞれ執務していた。

柘植は、昭和五三年一〇月二〇日大洋基礎を退職し、同年一一月一日自然村に就職した。柘植は、井手口の勧めに従い、自然村の敷地内に建設が計画されていた納骨堂の建設責任者として、能忍寺納骨堂建設室長の肩書で入社したが、井手口がその計画を実行する意欲を示さなかったので、昭和五四年八月自然村を退職した。

(5) 太平洋興発は、本店を東京都千代田区霞が関三丁目八番一号に置き、訴外藤森正男が取締役社長に就任していた。

訴外米山義二は、昭和五一年初め太平洋興発の顧問として招聘され、昭和五三年四月から取締役開発部長に就任して、執務していた。訴外道上武雄は、昭和二六年八月から昭和五四年七月まで太平洋興発に勤務し、昭和五三年当時は開発部用地課長になっていた。訴外相沢博は、昭和四五年から昭和五八年まで太平洋興発に勤務したが、訴外太平洋リビングサービスに出向した後、昭和五四年一月一日から太平洋興発の技術課長に就任した。

また、井手口が昭和六一年一月一日に死亡し、上原悦和が同月一一日、井手口ミドリが同月一八日にそれぞれ原告の代表取締役に就任した事実は、当裁判所に顕著である。

(二)  前記乙第一九号証、第二〇号証のないし五、第二四号証、第二五号証の一、いずれも成立に争いのない乙第一四号証の三、第三一号証の一ないし四、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第一四号証の二、第一五号証、証人米山の証言によりいずれも原本の存在及び成立を認める乙第一一号証、第一四号証の一、証人柘植及び同米山の各証言によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 大洋基礎は、昭和四二年ころ千葉県四街道市(当時四街道町)大字栗山所在の本件土地及びその周辺の土地を宅地に造成し、通称第一さちが丘団地として、これを分譲した。本件土地は、宅地として造成された土地の一部であるが、訴外東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)が本件土地の約半分に地役権を設定して、その上に高圧の送電線を設置していたため、売れ残っていた。

ところが、東京電力が昭和五二年六月ころ送電線のかさ上げ工事を行ったため、地役権を設定して置く土地の範囲が縮小され、その一部解除が可能な状況になった。

そのため大洋基礎は、東京電力と折衝して地役権の一部解除を求めた上、ガス水道の引込工事等を施工して、本件土地を一括して売却することとした。そのようにして売却するまでには多額の経費を要することが見込まれたが、大洋基礎は、更生会社になっていて、その経費を支弁する余裕がなかったので、そのような経費を負担してくれる買主を捜すこととした。

(2) 大洋基礎の管財人代理田中盛は、昭和五三年一一月一〇日管財人坪内壽夫に対し、「大洋基礎の工事関係で取引のある葵開発の仲介で、一括購入という話が出ているので、この際本件土地を売却したい。」と記載した決裁伺を提出した。

管財人坪内は、買主が太平洋興発であることを確認した上、同月三〇日東京地方裁判所に対し、同月一五日付けの原告及び太平洋興発作成に係る管財人あての「土地買受証明書」並びに売主大洋基礎・買主太平洋興発間の「土地売買契約書」案を添付して、「本件土地を代金一億六〇〇〇万円、売買手数料なしで太平洋興発に売却することについて、許可を求める。」と申請し、同年一二月四日同裁判所の許可を得た。

(3) 太平洋興発においては、開発部長米山義二が同年一二月四日役員会に対し、「本件土地の買収に伴う仲介手数料として、葵開発工事株式会社に九六〇万円を売買契約締結時(同月六日)に支払う件」について稟議を求め、同月六日社長及び取締役らの決裁を得た。

また、開発部長米山は、同月二五日役員会に対し、「本件土地の二次造成工事を葵開発工事株式会社に代金一〇四〇万円で発注し、その代金のうち五〇〇万円を契約時(同月二八日)に、五四〇万円を竣工予定日(昭和五四年一月二五日)に支払う件」について稟議を求め、昭和五三年一二月二七日社長及び取締役らの決裁を得た。

(三)  そこで、本件土地の売買契約締結にあたって折衝にあたった者について検討する。

(1) 証人大貫は、「昭和五三年三月ころ正堺から、本件土地の買主が見付かったとの知らせを受けたので、その旨を上司の柘植に報告した。」と証言し、証人正堺は、「昭和五三年六月ころ大洋基礎の大貫係長から、本件土地の買主を見付けてほしいと言われた。太平洋興発の道上課長にその旨を話したところ、物になるかも知れないとの感触を得たので、その旨を大貫に報告した。大貫は喜んで、その旨を柘植に伝えたと思う。」と証言して、その証言内容が符合している。証人柘植も、右の各証言に符合する趣旨の証言をしているので、本件土地の売買の話は、右の各証言にあるようなことで始まったものと認めることができる。

(2) 証人正堺及び同柘植の各証言によれば、正堺は、その後柘植を井手口に紹介した事実を認めることができ、証人正堺及び同米山の各証言によれば、井手口は、太平洋興発の開発部長米山義二に対し、「本件土地があるので、買い受けてもらいたい。」と申し出た事実を認めることができる。もっとも、正堺が柘植を井手口に紹介した時期及び井手口が米山に申出をした時期については、右の各証言の間に符合するところがないので、的確に認定することが困難である。

ところで、正堺は、前記認定のとおり、自然村の株式一〇〇〇株を有していたところ、「自然村においては、社長付きで社長の代わりに対外的な折衝にあたっていた。」と証言しているのであるが、自然村は、前記認定のとおり、自然村の造成維持管理及びホテルの経営等を目的としていたのであるから、正堺が自然村でどのような業務を担当していたのかは、良く分からない。証人正堺は、「自然村に籍を置いて、自然村の仕事にできれば良い、ということで、仲介の仕事をした。」と証言しているが、自然村は、不動産の仲介を目的としていなかった。

また、証人米山は、「井手口から、正堺及び柘植をいずれも安房自然村の社員として紹介され、その際両名から、いずれも安房自然村社員の名刺をもらった。それは五月か六月ころのようであった。」と証言しているが、前記認定のとおり、柘植は昭和五三年一〇月二〇日まで大洋基礎に在籍し、同年一一月一日から自然村に就職したのであるから、証人米山の右の証言は信用することができない。しかも、先に柘植は自然村に入社したと認定したけれども、柘植が能忍寺納骨堂建設室長の肩書で入社した者であり、かつ、前記乙第二四号証に、「自然村内にある宗教法人不老山能忍寺の建設室長として入社しました。」と記載されていることに照らせば、柘植の就職先については判然としないところがある。

(3) 証人米山は、「葵さんの井手口社長から電話を受ける数箇月前から、その話は出ていた。五二年に我孫子でマンションをやったときの付合いで、葵開発との付合いがあった。そこへ私どもの用地課の方が出入りをし、その仕事を向うの方から聞いたんだと思う。葵さんの方から、こういう物件があるというふうに、正式に私に申出があったのは、六月ころだと思う。」と証言しており、右の証言は、何気ない問答のうちに供述されたものであるから、信用することができる。また、証人米山は、「井手口さんは、葵開発と自然村の両方の社長をしている。我々は自然村とはさほど付合いがない。当然井手口さんからくれば、葵開発さんかというふうに考える。井手口さんというのは、あくまで葵の社長であるというふうに、我々は理解している。」と証言しているのであり、これによれば、太平洋興発の開発部長米山は、井手口が自然村の代表者として折衝にあたっていたとは認識していなかったものと推認するのが相当である。したがって、証人米山の証言のうち、「葵開発の社長としてお目にかかり、かつ、安房自然村の社長としてお目にかかった。井手口社長からも、これは安房自然村の仲介であるというふうにはっきり言われていた。」という部分は、たやすく信用することができない。

(4) 証人柘植は「太平洋興発とはほとんど折衝したことがなく、道上課長と一、二回会ったに過ぎない。あくまでも正堺を通じて折衝をした。」と証言しているが、証人正堺は、「太平洋興発との折衝は、業務に入ってから後は、柘植が主体で、私は取引についての業務だけである。採算面とか、利益が出るとか出ないとかについては、柘植が太平洋興発と話合いをした。」と証言しており、正堺が本件土地の売買契約締結についてどのような業務を遂行したかを的確に認定することはできない。

(5) 前記乙第一九号証、第二六号証の一及び証人米山の証言によれば、太平洋興発の開発部長米山は、井手口と折衝して、仲介手数料の金額、支払の名目、支払の時期等を取り決めた事実を認めることができる。

証人米山は、「自然村には宅地建物取引業法による免許がなかったので、自然村に仲介手数料を支払うためには、葵開発を経由して支払うほかなかった。その旨を井手口に説明し、合意の上、そのような手続を執ることに決めた。」と証言しているが、右の証言は、前記乙第一九号証及び証人大原豊実の証言と対比して信用することができない。

右の乙第一九号証に記載されているように、太平洋興発は、原告から二〇〇〇万円の仲介手数料を請求され、これを支払うことは承諾をしたが、法定の仲介手数料が九六〇万円の限度に規制されていたため、これを超える一〇四〇万円を支払うために、本件土地の造成工事を発注したように仮装したものと認めるのが相当である。

(6) 証人柘植の証言によれば、柘植は、自然村に入社した後は、本件土地の売買に関与しなかった事実を認めることができる。

前記乙第二〇号証の一、二によれば、本件土地の売買契約は、昭和五三年一二月六日東京都中央区日本橋小舟町所在の大洋基礎本社事務室において締結され、その際柘植は、大洋基礎の元不動産部次長として、これに立ち会った事実を認めることができ、また、前記乙第一九号証によれば、太平洋興発は、柘植に対し、同年一二月六日から昭和五四年五月三一日までの間に三回にわたって合計一二五万円を支払ったが、これは本件土地をめぐる権利関係が輻輳していたところ、柘植がその調査解決に協力したので、その対価として支払った事実を認めることができる。

(7) 証人正堺、同大貫、同相沢及び同米山の各証言並びに原告代表者の供述のうちには、「自然村が本件土地の売買の仲介をした。」という趣旨の証言及び供述があるけれども、これまで見てきた事情に照らせば、右のような証言及び供述は、いずれも信用することができない。

(四)  原告が太平洋興発から受領した二〇〇〇万円の行方について検討する。

(1) 原告が、その経理上、昭和五三年一二月六日に、自然村に対する支払手数料として九五〇万円のうち五八二万円を千葉銀行館山支店の自然村の普通預金口座に振り込んで支払い、残り三六八万円については沼南町岩井字鳥内六一三の土地一八四坪の売買代金と相殺したとして計上し、次いで、同年一二月一六日には、井手口の代理人である正堺に対し仮払金として一〇〇万円を支払い、また、自然村に対する外注費として二〇〇万円を千葉銀行館山支店の原告名義の当座預金口座に振り込んで自然村に送金したとし、同月二七日には、同じく自然村に対する外注費として三〇〇万円を右口座に振り込んで自然村に送金したと計上し、また、翌昭和五四年一月三一日には、同じく自然村に対する外注費として三八八万円を支払ったと計上した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、これらをもって二〇〇〇万円のうち一九三八万円を自然村に支払ったという。

(2) しかし、前記乙第二二号証、いずれも成立に争いのない乙第二一号証の一、第三〇号証いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第四ないし第六号証、第八ないし第一〇号証、第二一号証の二、第二三号証、第二八、第二九号証及び証人蓬田正及び同大原の各証言によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(イ) 原告は、千葉県東葛飾郡沼南町岩井字鳥内六一三番田一二〇三平方メートルについて、訴外平川信行から、昭和四四年一一月二七日に持分三六四分の一八〇を、続いて昭和四六年三月一六日に持分三六四分の一八四を譲り受けたが、このうち前記持分三六四分の一八〇を昭和四四年一二月一〇日に訴外日本地所株式会社に譲り渡し、残りの持分三六四分の一八四を能忍寺に譲り渡した。すなわち、原告は、能忍寺に対し右の土地持分三六四分の一八四の売買代金債権を有していたのに、昭和五三年一二月六日、これを自然村に対する売買代金債権として、原告の自然村に対する支払手数料三六八万円とこの売買代金債権とを相殺したと経理処理をした。

(ロ) 昭和五四年一月三一日の外注費三八八万円は、同日の別の支出五二万円と一括して、千葉銀行館山南支店の能忍寺の普通預金口座に振り込まれた。

(ハ) 五〇〇万円が振り込まれた原告名義の千葉銀行館山支店の当座預金口座は、かつて原告が自然村と称する観光施設の経営を行っていた時に使用していたものであって、自然村が原告から独立して法人化した後は、井手口が個人用の口座としてこれを使用していた。

(ニ) 自然村は、昭和五四年一一月三〇日に提出した昭和五三年九月一日から昭和五四年八月三一日までの事業年度の確定申告において、雑収入として原告から能忍寺工事代金として三八八万円を受け取った旨申告したのみであって、昭和五七年五月一八日提出の修正申告に至って初めて、受取手数料計上もれとして二〇〇〇万円を計上した。

(3) また、昭和五三年一二月一六日に原告から井手口の代理人として一〇〇万円を受け取った正堺は、これを同月二二日に能忍寺が太田に対して負担していた建物設計代金債務の支払として同人に支払い、一二月六日の振込金五八二万円を自然村は井手口からの借入金として経理処理し、原告からの収入としていないことは、いずれも当事者間に争いがない。

(4) これらの事実からすると、原告から自然村に対し、仲介手数料として原告主張の一九三八万円が支払われた事実はなかったものといわざるをえない。

(五)  以上のような経緯に照らせば、本件土地売買の仲介は、原告がこれを行ったものと認めるのが相当である。

したがって、原告の計上した支払手数料九五〇万円及び外注費九八八万円の合計額一九三八万円は、いずれも損金として計上する根拠がなかったのであるから、被告がこれを損金に算入することを否認したのは正当である。

3  減算項目及び金額について

抗弁1の(二)の(3)について判断するに、前記2のとおり原告のした支払手数料等一九三八万円の損金算入は否認されるべきであるから、法人税法三七条、同法施行令七三条によると、被告の主張するとおり、原告が当期に支出した寄付金のうち二四万二二四七円は、なお損金として算入するのが相当である。

また、前記2のとおり支払手数料等一九三八万円の損金算入を否認し、前述のとおり寄付金のうち二四万二二四七円の損金算入を認容すると、その差額一九一三万七七五三円を昭和五四年三月期の繰越欠損金として損金に算入することは正当である。

4  欠損金控除額

以上の結果、被告が、原告の欠損金控除額について、これを原告の申告欠損金控除額に前記3の繰越欠損金の損金算入額を加算した二九〇一万九一六八円としたのは正当である。

5  以上のとおりであるから、原告の当期の所得合計額は前記加算項目から減算項目を控除した零円となる。

6  還付法人税額については、当事者間に争いがない。

三  昭和五五年三月期について

原告の当期の申告所得金額が零円であることは、当事者間に争いがない。

前記二の3記載のとおり原告の昭和五四年三月期の繰越欠損金の損金算入額は一九一三万七七五三円であるから、これを原告が申告した繰越欠損金五八四五万五三一三円から控除すると、当期の繰越欠損金は三九三一万七五六〇円となる。したがって、欠損金控除前の所得金額五六七二万〇三〇七円からこの繰越欠損金三九三一万七五六〇円を控除した一七四〇万二七四七円については、控除過大となるから、その損金算入を否認すると、原告の当期の合計所得金額は一七四〇万二七四七円となる。

四  本件更正処分の適法性

以上のとおり、原告の昭和五四年三月期の欠損金控除額は二九〇一万九一六八円、所得金額は零円、昭和五五年三月期の欠損金控除額は三九三一万七五六〇円、所得金額は一七四〇万二七四七円であるところ、本件更正処分はこれと同額をもってなされたのであるから適法であると認めることができる。

五  重加算税について

前記二の2に述べたとおり原告が支払手数料及び外注費として一九三八万円を損金として計上したことは、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したものに該当する。国税通則法六八条一項によれば、原告の重加算税額は一八三万六〇〇〇円となる。したがって、これと同額をもって被告のした重加算税の賦課決定処分は適法である。

六  源泉所得税について

1  原告が、昭和五三年一二月六日、自然村あてに支払手数料として五八二万円を振込送金したこと、自然村では、これを井手口からの借入金として経理処理していることは、いずれも当事者間に争いがない。そこで検討するに、前記二の2に述べたとおり、本件土地の売買の仲介は原告が行ったもので、原告が自然村に仲介手数料を支払う根拠はないとみるのが相当であるから、この送金は、自然村の経理処理のとおり、原告が井手口に支給し、井手口が自然村に貸付けたと見るのが相当である。

2  原告が、同年一二月二二日、自然村あてに外注費として二〇〇万円を振込送金したこと、自然村では、これを井手口からの借入金として経理処理していることは、いずれも当事者間に争いがない。そこで検討するに、自然村がこの外注費に相当する工事を受注した事実のないこと、この二〇〇万円は実質は本件土地の売買の手数料の一部であることは、当事者間に争いがなく、前記二の2に述べたとおり、この二〇〇万円を自然村が仲介手数料として支払を受けるべき根拠はなかった。そうだとすると、この送金は、自然村が経理処理をしたように、井手口の自然村に対する貸付金に充てるために支払われたと見るのが相当であって、この二〇〇万円は、原告が井手口個人に対し支給したものと認めるべきものである。

3  原告が、同年一二月一六日、井手口の代理人である正堺に一〇〇万円を交付し、井手口がこれを、同月二二日、太田に支払ったこと、右支払は、能忍寺が太田に対して負担していた建物設計代金債務の弁済としてなされたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。そこで検討するに、原告は、右支払はその実質が原告の自然村に対する仲介手数料の支払であると主張するものであるが、前記二の2に述べたとおり、原告には、自然村に対して仲介手数料を支払う根拠がなかったから、右支払は、原告から井手口個人への支給と見るのが相当である。

4  井手口が、同年一二月二八日、千葉銀行館山支店の原告名義の当座預金口座から三〇〇万円を払い出したことは、当事者間に争いがない。そこで検討するに、原告は、この三〇〇万円もその実質は原告の自然村に対する仲介手数料の支払の一部であるというのであるが、前記二の2に述べたとおり、原告はそのような支払をなすべき根拠がなかったのであるから、この払出しも原告から井手口個人への支給と見るのが相当である。

5  以上の事実を総合すると、原告は、昭和五三年一二月中に一一八二万円を、その代表者である井手口に役員賞与として支給したものと認めるのが相当である。所得税法一八三条、一八六条一項の規定によれば、原告が右の井手口に対する賞与の支給について徴収し、納付すべきであった源泉所得税の額は三五四万六〇〇〇円となる。したがって、右の金額を納付すべきものとした被告の本件納税告知処分は適法である。

七  不納付加算税について

原告が、前記六の源泉所得税を、その法定期限までに納付しなかったことは、原告が明らかに争わない。国税通則法六七条一項の規定によれば、右源泉所得税に対する不納付加算税は三五万四六〇〇円となる。したがって、被告のした不納付加算税の賦課決定は適法である。

八  以上のとおり、本件各処分はいずれも適法なものであったから、原告の請求はいずれも失当なものとして、これを棄却すべきである。そこで、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤一隆 裁判官 池本壽美子 裁判官 堀内照美)

別表

寄付金損金不算入額認容分の計算(法人税法37条、同法施行令73条)

〈1〉 寄付金の額 5,350,791円…〈1〉

〈2〉 更正時の寄付金の損金算入限度額

〈省略〉

〈3〉 更正時の寄付金の損金不算入額(〈1〉-〈2〉)

=5,350,791円-400,922円=4,949,869円…〈3〉

〈4〉 修正申告時、所得金額に加算した寄付金の損金不算入額

5,192,116円…〈4〉

〈5〉 寄付金損金不算入額認容分(〈4〉-〈3〉)

=5,192,116円-4,949,869円=242,247円

(注)所得金額の計算

イ 寄付金の額 5,350,791円…〈イ〉

ロ 修正申告時の寄付金の損金算入限度額計算上の所得金額

4,343,046円…〈ロ〉

ハ 更正処分による所得金額の増加額 19,380,000円…〈ハ〉

(支払手数料否認950万円及び外注費否認988万円の合計額)

ニ 所得金額(〈イ〉+〈ロ〉+〈ハ〉) 29,073,837円

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